マンションでピアノを弾くなら防音対策について考えましょう。ピアノや様々な楽器を演奏することは好きな人にとって、人生を豊かにするものです。また、職業としてピアノを演奏する必要がある人もいるでしょう。
楽器の演奏を心から楽しんだり、おもいっきり練習するためには、音のトラブルを未然に防ぐ必要があります。ピアノの音は弾いている人が思っている以上に響きます。実際に苦情を言われて対策を取るよりも、先に対策を取ってトラブル自体を発生させない方がいいですよね。苦情は言う方も、言われる方も気持ちのいいものではありません。
この記事ではマンションでピアノを弾くときの注意点や防音の基礎知識、そして具体的な防音対策について紹介します。また、ピアノ以外の楽器の場合も参考にしていただけると思います。
Contents
マンションでピアノを弾くための基礎知識
マンションの管理規約を確認する
分譲マンションでピアノを弾くならまずは管理規約を確認書ましょう。管理規約で楽器演奏不可となっていればそもそもピアノを置くことができないからです。マンションでピアノを弾きたいのなら、新築であれ中古であれ、購入前に必ず確認しておきましょう。
楽器演奏可の場合、管理規約のチェックポイントは次の3点です。
- 演奏可能な楽器(ピアノ、管楽器、ギターなど)
- 演奏可能な時間帯
- 楽器を演奏する場合に必要な対策
楽器演奏が可能な場合、どんな楽器がOKなのかを確認しましょう。特に規定がない場合もありますが、種類が限定されている場合はそれ以外の楽器の演奏はできません。ピアノが演奏可能なのか、ピアノの中でもアップライトピアノだけなのか、グランドピアノはどうなのかということが確認できます。
ピアノが演奏可能な場合も、24時間演奏可能だとは限りません。演奏可能な時間帯が決められている場合があります。演奏可能な時間帯以外で演奏すれば規約違反になります。ご自身のライフスタイルに合った時間帯が設定されているかどうか確認しましょう。
楽器を演奏する際に「必要な防音対策を取ること」という規約がついている場合があります。マンションの検討段階であれば、新築マンションの場合は分譲会社に、中古マンションの場合は不動産会社に依頼して管理組合に、必要な対策について確認しましょう。
規約に楽器演奏に関することが規定されていない場合も、念のため管理組合に確認を行った方がいいでしょう。
マンションでピアノを弾く人がやるべきこと
管理規約を守ることが大前提ですが、管理規約に規定があってもなくても、マンションなどの集合住宅でピアノを弾く人は音への対策を考えたほうがいいでしょう。苦情を言われたり、トラブルになってから対策を考えるのではなく、事前に対策を行うことでトラブルの発生を未然に防ぐという考え方が必要です。
苦情が来てから対策をとっても、相手との関係はぎくしゃくしますし、音以外のことでも苦情やクレームの対象になりやすくなります。また、人は一度気になりだしたら、とことん気になるということがあります。事前に対策をとる方がはるかに効率的です。
ピアノを弾くのは趣味を楽しんだり、人生を豊かにするためだと思います。自分のためにも、周囲の人のためにも、安心して演奏を楽しめる安定した生活環境を目指しましょう。
音の伝わり方を理解する
音の種類と伝わり方
音には伝わり方によって次の2種類があります。
- 空気伝搬音
- 固体伝搬音
ピアノは空気伝搬音、固体伝搬音の両方の音を出します。それぞれの特徴を確認することで、効果的な防音対策のヒントが見えてきます。
空気伝搬音
空気が振動して伝えられる音です。音源から空気に発せられた音が振動として伝わっていきます。話し声やテレビの音、トランペットの音などは空気伝搬音です。空気伝搬音は距離が離れるほど伝わる音が小さくなります。また、壁や窓などの遮蔽物による低減されます。
空気伝搬音は隙間をふさいだり、防音材を使うことで防音ができます。固体伝搬音より対策が取りやすいという特徴があります。
また、鉄筋コンクリート造のマンションで壁の厚さが150㎜以上あれは、通常の話声などはなんの対策をしなくても止まります。
固体伝搬音
床や壁などの固体に、力や衝撃が加わったときに振動として伝わる音です。歩行音やドアを閉める音、モノを落としたときの音、壁を叩いたりしたときに伝わる音です。給排水管や設備などからも固体振動音が発生します。固体が振動して伝わる音なので、伝達経路が複雑であり、低減されにくいという特徴があります。空気伝搬音に比べて対策が難しいです。
固体伝搬音を制御するためには、音の発生源と接する固体の間に、やわらかく衝撃緩衝作用ある防振材を用いるなどの対策があります。例えばピアノの下に防振作用のあるマットを敷くなどの対策です。
音の大きさ
音の大きさを表す単位にデシベル(dB)というものがあります。私たちが普段聞く音はどれくらいの大きさなのでしょうか。
- ささやき声:30dB。
- 静かな住宅街や図書館:40dB
- エアコンの室外機や静かなオフィス:50dB
- 人が普通に話すときが60dB
- 掃除機または騒々しい街の中:70dB
- 犬の鳴き声・騒々しい工場内:90dB
- 電車が通るときのガード下:100dB
- ヘリコプターの近く、車のクラクション:110dB
- ジェット機のエンジン:120dB
個人差がありますが、だいたい60~70dBを超えるくらいから人はうるさいと感じます。環境省が定める住宅街の望ましいは音の基準値は、昼間で55dB以下、夜間で45dB以下となっています。
ピアノの音量は90~110dBです。かなりの音量になりますね。
ピアノの音の特徴
ピアノの音には空気振動音と固体振動音があります。
ピアノの空気振動音
ピアノが音を出す仕組みは次のようになっています。
鍵盤を押す→ハンマーが弦を打つ→弦の振動が駒に伝わる→駒の振動が響板に伝わる→響板全体が振動して空気に伝わる→音が出る
このようにピアノは弦の振動が響板につたわり、響板を中心に全体が振動することで音を出しているのです。アップライトピアノの場合は主に背面から音が出ます。グランドピアノの場合は上下に音が出やすく、特に響板が下についているので下方向の防音対策が重要です。
また、ピアノを弾く部屋から外に音が出にくくするために、二重サッシの設置やドアの隙間を塞ぐなどの対策も一定の効果があります。
ピアノの固体振動音
固体振動音は鍵盤を押したり、ペダルを踏んだりしたときの振動がピアノのキャスターから床を通して他の部屋や住戸に伝わることで発生します。個体振動音は電子ピアノであっても発生します。防音マットやパネルなどの上にピアノを設置することで固体振動音を低減させる対策が必要です。床に直接ピアノを置くとダイレクトに振動が伝わります。
防音性が高いマンションとは
マンションの構造によって防音性能は違います。マンションの構造には鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、鉄骨造(S造)があります。防音性能が高いのは基本的に鉄筋コンクリート造(RC造)と鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)です。
また、 同じ鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)でも、コンクリートの壁の厚さによって防音効果は違います。最近のマンションは壁が厚い建物が多いです。壁の厚さが150㎜以上、できれば180㎜以上のマンションであれば防音効果がより高いでしょう。壁の厚さに関しては、不動産会社に確認してもらいましょう。
鉄骨造(S造)に関しては一般的に防音性能は高くありません。特別な対策を行えばある程度防音性能を高めることはできますが、特に固体振動音に関しては鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)にかないません。
マンションでピアノを弾きたい方は鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)を選びましょう。
防音性能を含めた、マンションの構造による建物の性能に関してはこちらの記事で詳しく説明していますので参考にしてみてください。
すぐにできる防音対策
ここで紹介する防音対策は比較的簡単に、しかも本格的な対策と比べてお金をかけずに実施することができます。あまりお金がかからないというのは、本格的な防音対策と比較すればということなので、決して安いという意味ではありません。
可能であれば、これから紹介する対策のうち、「ピアノを置く場所」、「防音マット・インシュレーター」、「防音パネル」はぜひ行いたいところです。総額で20万円くらいかかると思います。もし予算に余裕があるようであれば「二重サッシ・内窓」を検討してみたらいいでしょう。
すぐにできる対策とはいえ、決して安くはありませんが、安心してピアノを弾ける環境を手に入れ、近隣との関係を良好に保つためと考えれば、十分検討する価値があると思います。
ピアノを置く場所
お金がかからない方法です。一度設置したピアノを移動するにはお金がかかりますが、引っ越しの時に防音を考えた配置を行えばかかかるのは引っ越し代だけです。
まず可能であれば、他の住戸と接していない部屋にピアノを置きます。すべての部屋が他の住戸と接している場合は、戸境壁(他の住戸との境となる壁)からできるだけ遠くにピアノを置きます。
特にアップライトピアノは主に背面(弾く方と反対側)から音がでるので、戸境壁と接する壁に背面を付けて設置するのは避けるべきです。自分の住戸の他の部屋と接する壁に設置しましょう。それが不可能であれば、他の住戸の居室でない部屋(洗面所、浴室など)との戸境壁に設置するという方法もあります。
また、ピアノを置いた部屋の戸境壁に家具や本棚を設置すれば、さらに防音効果を高めることができます。
必要な金額:0円
防音マット・インシュレーター
鍵盤を押すときやペダルを踏むときのドンという振動が床を伝わり、他の住戸に響く固体振動音の対策は、床の上に防音効果のあるマットなどを敷くことです。衝撃緩衝効果のある防振材料でつくられた専用のマットを敷くことで、床に伝わる振動を防止することができます。
できればピアノの振動を防止する効果が実証されたしっかりした製品がおすすめです。中途半端なものを使って、効果がなければ時間とお金の無駄になります。
マット等に加えてキャスターの下に防音性能のあるインシュレーターを敷くことでさらに高い防音効果を高めることができます。
必要な金額:約5万円から10万円(設置する面積によっても変わります。)
防音パネル
アップライトピアノの背面に設置したり、グランドピアノの弦の上下に取り付ける、遮音・吸音効果のあるパネルです。防音パネル、防音ボード、遮音パネル、遮音ボード等の名前で様々なメーカーから発売されています。
音の聞こえ方は少し変わりますが、マフラーペダルを使うよりは違和感のない音を出すことができます。
必要な金額:5万円~10万円
二重サッシ・内窓
窓の内側にもう一つ窓を設置します。二重サッシや内窓といいます。製品としてはLIXILのインプラス、YKK APのプラマードなどが有名です。
防音効果の他に断熱効果もアップします。また、また取付け工事は数時間でできます。
必要な金額:5万円~20万円(窓の大きさやガラスの種類で変わります。)
ピアノに消音ユニットを取り付ける
ピアノに消音ユニットを取り付けることでピアノを電子ピアノのように使うことができます。消音ユニットを取り付ければ、ピアノから直接音は出ず、電子音としてヘッドフォンで音を聞くことができます。
仕組みは鍵盤を押すと、普通はハンマーが弦を叩きますが、消音ユニットを付けると弦を叩く直前でハンマーを止めるストッパーが働き、弦を振動させないことでピアノの音は鳴りません。一方光センサーが打鍵の動きや強弱を正確に感知し、ユニットに伝えることで電子音として再現します。
いくつかのメーカーの消音ユニットは打鍵の微妙な強弱やタッチを電子音として再現することができます。ヤマハやカワイなどが出している消音ユニットや、KORGというメーカーが有名です。
最初から消音ユニットが付いたピアノも販売されていますし、多くのピアノに後付けもできます。大きめの楽器店やメーカーのショールームでは消音ユニットを体験することができるので、検討する場合は実際に試してみることをおすすめします。
注意点としては、ピアノの音自体はとめることができますが、打鍵音やペダルを踏むときの振動はかわりませんので、振動に対する対策は消音ユニットに関わらず必要です。
必要な金額:約15万円~40万円(メーカーや取る付けるピアノ、製品の機能による)
本格的な防音対策
防音室(ユニットタイプ)
ヤマハやカワイが発売しているユニットタイプの防音室です。部屋の中に組み立てて箱を作るようなイメージです。工事は必要ですが、移動もできます。
必要な金額:100万円~200万円
防音工事
部屋の構造や形、楽器の音量、防音のレベルに合わせて防音室をつくることができます。床、壁、天井、開口部など全体に効果的な防音対策を行うことができます。その分金額も高くなりますが、甲かも期待できます。
グランドピアノはアップライトピアノの1.2~1.5倍の音量になります。マンションでグランドピアノを演奏したい場合はユニットタイプの防音室や、本格的な防音工事でより入念な対策をとった方がよいでしょう。
マンションでピアノを楽しみたい
趣味であったり、仕事であったり、ピアノを弾くなら楽しく弾きたいですよね。ピアノを演奏するというのは人生を豊かにする素晴らしい事だと思います。
安心しておもいっきりピアノを楽しむためにも、必要な知識を持って、トラブルを未然に防ぐ防音対策を行っていただきたいと思います。苦情やクレームを受けたり、近隣との関係がぎくしゃくすれば、ピアノも楽しめません。
周囲との良好な関係を築き、楽しくピアノを演奏できる環境をつくりましょう。