マンションや住宅用不動産を購入するとき、土地と建物のどちらも買うという場合が多いのですが、建物だけ買って土地は借りるという方法があります。 マンションは自分のものになるけど、敷地は第三者が所有したままということです。土地も建物も購入する場合、購入者は土地と建物の所有権を有することになります。しかし、建物を買ってその敷地は他人から借りる場合、購入者は土地の「借地権」という権利を持つことになります。
所有権・・・土地と建物を購入して所有する。
借地権・・・土地は借りて建物だけ購入する。
この「借地権」正直ややこしいです・・・。でも、内容を理解して、ニーズにマッチすれば価値ある制度ではあると思います。この記事ではなるべくわかりやすく、必要なことを解説したつもりですが、読み返すとやっぱりややこしいです!ただ、本気で借地権マンションのメリットを享受したいと思うなら、できれば知っておきたい知識です。たしかに考え方や人によってはメリットがあります。ややこしいので、本気で借地権マンションを検討する方に読んでいただければと思います。
土地の権利形態が「借地権」であるマンションを購入する最大のメリットは価格が安いことです。一般的に相場より、20%から30%くらい安くなると言われています。例えば相場が5,000万円の場合、1,000万円から1,500万円安くなるということです。相当大きな差ですよね。例えば1,500万円安くなる場合、住宅ローンの毎月の支払いで考えると毎月4万円前半くらい安くなることになります(金利全期間固定1%、借入期間35年という仮定の条件でシミュレーション)。毎月の支払いで考えるとかなり大きいですよね。年間で考えると50万円くらいになります。
もちろんデメリットや注意点があります。一番に挙げられるのは毎月、土地代(賃借料)を払う必要があることです。誰も土地をただで貸してくれませんよね。その他にも所有権のマンションにはかからない費用があります。また、売却時の注意点など知っておくべきことがあります。
この記事では、マンション購入者が知っておきたい借地権の種類や知識、土地の権利形態が「借地権」であるマンションのメリット、デメリット、注意点についてわかりやすく説明していきます。
Contents
所有権と借地権
敷地の権利には所有権と借地権があります。借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権の事です。つまり建物を建てて使用するために土地を借りる権利です。土地を借りて使用する人は土地の所有者(地主)に地代を支払う必要があります。借地権は譲渡(売却)または相続することができます。
※この記事で説明するのは”借地借家法”の「借地権」です。その他に民法で規定する「借地権」があります。建物の所有目的以外、例えば駐車場や資材置き場などは民法の「借地権」が適用されます。
借地権には”地上権”と”賃借権”がありますがマンションの場合、借地権のほとんどが”賃借権”です。マンションの借地権(賃借権)には旧法借地権、普通借地権、定期借地権の3つの種類があります。
ここでは所有権と借地権の種類についてそれぞれ解説します。
所有権
所有権とは不動産、特定の物を全面的、排他的に支配する権利です。簡単に言うと、所有権があれば好きにしていいということです。所有者は自分のためにいろんな使い方をしたり(使用)、利用して利益を得たり(収益)、また売却(処分)することができます。全部自分で決めて自由に使えるという権利です。
ただし、社会全体の利益や公共の福祉のために制約を受けることがあります。例えば不動産の場合、土地の所有権を有しているからといって、その上にどんな建物でも建てていいというわけではありません。建物の構造、高さ、面積、用途などは、都市計画法、建築基準法、各地の条例などによって様々な制約を受けます。このように所有権は特定の物を全面的・排他的に支配することができる強い権利ですが、何でもできるというわけではありません。
旧法借地権
借地権には大正時代に制定された旧借地法による権利と、平成4年に施行された新借地法による権利の2種類があります。
旧法借地権とは大正10年に制定された借地法・借家法という法律で規定された権利です。かなり昔につくられた法律であり、平成4年(1992年)8月以降は新しい法律が適用されるようになりました。しかし新法適用以前に契約された借地契約は現在でも旧法の規定が適用されます。中古マンションなどは現在でも旧法借地権の契約が多いという現状があります。
旧法借地権では借地権者(土地を借りている人)の権利が強く保護されているという特徴があります。地主側からの更新拒絶には正当な事由が必要とされていますが、正当な事由として認められることはほとんどなく、土地の返還が非常に難しいという側面がありました。事実上更新拒絶ができないので、更新し続けることで半永久的に土地を借り続けることができます。こうしたことからトラブルが多く発生しました。
旧借地法での契約期間は建物の構造によって決まります。堅固建物(鉄骨造・鉄筋コンクリート造など)と非堅固建物(木造など)でそれぞれ、契約によって定められる期間、期間を定めなかった場合、更新後の期間が決まっています。
堅固建物(鉄骨造・鉄筋コンクリート造など)
- 契約によって期間を定める場合:30年以上
- 期間を定めなかった場合:60年
- 更新後の期間:30年
非堅固建物(木造など)
- 契約によって期間を定める場合:20年以上
- 期間を定めなかった場合:30年
- 更新後の期間:20年
普通借地権
普通借地権は平成4年(1992年)8月に施行された新しい借地法による借地権です。新法の借地権には普通借地権と定期借地権の2つの種類があります。普通借地権と旧法借地権の主な違いは契約期間です。新法では建物の構造による契約期間の違いはありません。
- 契約期間:30年
- 1回目の更新後の期間:20年
- 2回目以降の更新後の期間:10年
地主と借地権者の合意でこれより長い期間の契約を結ぶこともできます。地主の更新拒絶の正当事由をより明確に定めたり、地主の都合による契約解除についても規定が設けられ、一定程度地主の権利に配慮したものとなっています。ただ、借地権者(土地を借りている人)の権利を強く保護しているという点では旧法借地権と大きく変わりません。地主都合の借地契約解除や更新拒絶には、正当事由が必要であり、多額の立退料が必要な場合もあります。通常は建物が朽ち果てるまで契約は更新されると考えてよいでしょう。
定期借地権
定期借地権は平成4年(1992年)8月に施行されたもう1つの借地権で、従前の旧法借地権とは大きく異なります。定期借地権の場合、契約期間が満了すれば契約は終了です。更新は行われません。定期借地権には”一般定期借地権”、”事業用定期借地権”、”建物譲渡特約付き借地権”の3種類があります。分譲マンションの定期借地権は通常、”一般定期借地権”です。
一般定期借地権
契約期間は50年以上であり更新は行われません。契約期間が満了すると、借主はは建物を取り壊して更地にして地主に返還しなくてはなりません。契約は公正証書による等書面で行われる必要があります(借地借家法第22条)。最近では契約期間70年の定期借地権付きマンションが販売されることもあります。
事業用定期借地権
店舗や事務所など事業用の建物所有を目的とした定期借地権です。居住用の建物所有を目的とした場合には適用されません。契約期間は10年以上50年未満です。また、契約期間によって借地権の内容が違います。
- 契約期間10年以上30年未満の場合:借主は契約期間が満了すれば建物を解体して、更地で地主に返還する必要があります。契約の更新はできません。
- 契約期間30年以上50年未満の場合:契約期間が満了しても契約の更新を行うことができます。契約の更新がないときは、借主は地主に対して建物を時価で買い取るよう請求することができます。契約期間満了後、更新せず、地主が建物の買取を求められないようにするにはその旨を特約で定める必要があります。
公正証書による契約が必要です(借地借家法第23条)。
建物譲渡特約付き借地権
居住用、事業用など、用途に制限のない定期借地権です。契約期間は30年以上で、契約期間が経過した日に借主は借地上の建物を相当の対価で地主に譲渡するという特約を契約時に交わした借地権です。つまり契約満了時に地主が時価で建物を買い取るという特約がついた契約です。契約は口頭でも成立しますが、30年以上も先の事を定める契約なので当然書面で契約するべきでしょう。
所有権付きマンションと借地権付きマンションの比較
ここでは所有権付きマンション、普通借地権付きマンションそして定期借地権付きマンションのメリット・デメリットを見ていきます。
所有権付きマンション
ほとんどのマンションはこのタイプです。土地も建物も所有権を有しています。
メリット
- 期限がなくずっと使える。
- 土地が値上がりした時に売却して利益を出すことができる。
- すべて自分のものであるという満足感。
デメリット
- 借地権付きマンションより物件価格が高い(20%から30%)。
- 土地・建物両方の固定資産税を払う必要がある。
普通借地権付きマンション
土地を第三者である地主に借りて建てたマンションです。契約期間があるものの、基本的には更新されて土地を借り続けることができます。
メリット
- 物件価格が安い。
- 土地の固定資産税を払わなくてもよい。
- 好立地であることが多い。
デメリット
- 毎月地主に地代を払う必要がある。
- 契約更新時に「更新料」が発生することがある。
- 売却時に地主の承諾が必要で、「承諾料」が発生することがある。
- 利用できる住宅ローンが限られたり、条件が付く場合がある。
- 売却が難しい。売れにくい。
定期借地権マンション
土地を第三者である地主に借りて建てたマンションであることは普通借地権と同じです。違いは契約期間が満了すれば更新されず、建物を取り壊して、更地にして地主に返還する必要があります。契約期間は50年以上で、最近では70年の定期借地権付きマンションも販売されています。
メリット
- 物件価格が安い。
- 土地の固定資産税を払わなくてもよい。
- 好立地であることが多い。
デメリット
- 毎月または一括して地主に地代を払う必要がある(契約による)。
- 契約期間が終了したら住むことができない。
- 建物を取り壊す費用を負担する必要があり、毎月「建物取り壊し準備金」を徴収されるケースが多い。
- 利用できる住宅ローンが限られたり、条件が付く場合がある。
- 特に借地の契約期間が短い場合、売却が難しい。
借地権の場合、土地の地代の他に契約時に一時金が必要です。一時金には次の3つの種類があり、併用されることもあります。一時金を支払う場合でも、土地を購入する場合にくらべて支払額は少なくて済みます。これが借地権マンションが所有権マンションより価格が安い理由です。
- 保証金方式:借主の賃料不払いに備えるための保証金で、契約終了時に返還されます。
- 権利金方式:定期借地権設定の対価として支払われるお金です。権利金は返還されません。
- 前払賃料方式:土地の賃料の全部または一部を一括で前払いする方式です。当然返還されません。
注意点は一時金の方式によっては、土地部分の借入が住宅ローン控除の対象外となることです。権利金は控除の対象となり、保証金は定められた算式で計算した額が控除の対象となりますが、前払賃料は控除の対象外となります。
権利形態とマンション選びの考え方
分譲マンションの購入を考えたとき、敷地の権利形態が所有権か借地権かということを基準にマンション探しをする方は少ないでしょう。たまたま希望するエリアに借地権付きマンションが販売されていて、どうするか悩んでいるという方が多いと思います。
借地権マンションは”あり”か”なし”かという問いに正解はありませんが、権利形態によるマンション選びの考え方をまとめてみようと思います。
記事の中で借地権マンションのメリット・デメリットについて紹介しましたが、大きく分けると「お金のこと」と「売却時や借地期間満了時にどうするかという将来の計画に関すること」になります。
お金のこと
お金のことに関しては、購入時の価格が安いけど、地代や更新料、承諾料などがかかるので、実際にどちらが金銭的負担が大きいのかを考える必要があります。これはケースバイケースです。借地権付きマンションを住宅ローンで買った場合の毎月または年間の支払額を、検討の候補に挙がっている所有権付きマンションと比較してみる必要があります。当初価格が安く、住宅ローンを含めたランニングコストが安くなるのであればお金の面でメリットがあると判断できますので購入を検討する価値があります。
所有権マンションのランニングコスト
- 住宅ローン
- 管理費
- 修繕積立金
- 土地の固定資産税
- 建物の固定資産税
借地権マンションのランニングコスト
- 住宅ローン(借入額は所有権マンションより低くなる)
- 地代
- 管理費
- 修繕積立金
- 建物の固定資産税
- 建物取り壊し準備金(定期借地権の場合)
また、更新時には更新料、売却時には譲渡承諾料が発生する場合があります。
※契約内容によってその他の費用がかかる場合があります。
将来の計画のこと
借地権付きマンションを新築で買う場合は契約期間が50年や70年あるのですが、中古の定期借地権付きマンションの場合は注意が必要です。中古の定期借地権付きマンションで、契約の残存期間が20年の中古マンションを30代の人が購入した場合、50代で出ていく必要があり、新たな住居を探す必要があります。基本的に、残存期間が短い借地権付きマンションは避けるようにしましょう。
定期借地権付きマンションは、立地が良く契約の残存期間も長ければ売却も可能です。それでも、同条件の所有権マンションと比べれば価格は安くなる可能性が高いということを理解しておく必要があります。
まとめ
借地権付きマンションの購入を検討する場合は、借地権についてある程度の知識を持って、メリット・デメリットをしっかり比較検討する必要があります。
価格が安いというのは大きなメリットです。費用を抑えることで家計に余裕がでれば、お子さんの教育により多くのお金をかけることができたり、快適で充実した暮らしのためにお金を使うことができるでしょう。借地権マンションだからといって何か生活上の制約があるわけではありません。
実際、地主としては売らずに持っておきたい価値の高い土地だから借地権を設定するという場合が多いです。立地が良いというのも借地権マンションの特徴です。
価格が安く立地条件が良い場合が多いので、あなたの将来計画とマッチすれば十分検討の余地はあるでしょう。もちろんメリットだけではありません。余裕があって、予算の範囲で希望のエリアの希望のグレードの所有権マンションが買えるのであればそちらの方がいいでしょう。予算に限りがあり、立地やグレードなどに妥協したくない場合、一つの選択肢になります。選択肢が多いのはいいことです。